長男だから・・・で大丈夫?
現行法では「長男だから多くもらえる」は通用しない
相続に関するご相談で、しばしば耳にする中のひとつが
「長男の嫁が、『うちが長男なんだから余分に財産もらえるはずですよね』と迫ってくる。本当は娘に遺したいのに」
という類の「長男だから」問題です。これは、かつての日本(旧民法下)では、「家制度」のもと、家督を継ぐ長男が家や財産をほぼ全て相続する仕組みがあったためです。
一方現行の民法では、子供たちの法定相続分は人数で均等に分けられます。そして、誰がどれだけ親に対して貢献してきたかは関係なく、原則として相続分は同じです。
家族のかたちも大きく様変わりしました。かつてのような大黒柱を中心とした「イエ」ではなく、核家族化が進み、兄弟姉妹の関係性もかつてと同じものとは言えません。そういった時代の流れも相まって、法律そのものが遺産の分け方に対して、「長男に全部」は是としなくなったのです。
親の介護や貢献は評価されるのか?
これも大変重要な話ですが、親の介護や生活支援をしてきた場合、それが「相続分の増加」として自動的に評価されるわけではありません。
民法には「寄与分」という制度があり、これによると、被相続人(親)の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人は、他の相続人より多く遺産を受け取る権利を主張できます。
しかし寄与分を主張するには、かなり具体的な証拠を準備して遺産分割協議の際に提出しなければなりません。よしんば証拠が揃い、それをもとに充分な説明が出来たとしても、他の相続人がそれを認めなければ、家庭裁判所の判断に委ねられます
裁判までもつれ込み、主張が認められたとしても、果たして期待していた結果が得られるかどうかは別問題です。
遺言書・生前贈与の活用
親が特定の子供に多く遺したいと考えた場合、最も有効な方法は遺言書の作成です。遺言書がなければ法定相続分が原則となります。
遺言書には自分で書ける「自筆証書遺言」と公的な書面にする「公正証書遺言」の2種類があります。 自筆証書遺言はペンと紙があればいつでも書ける反面、法的な要件を満たさず無効となるケースや、改ざんされたり、といった問題点があります。公正証書遺言は法的に無効となる心配はありません。確実に意思を伝えるという目的を思えば、公正証書遺言がおすすめです。
また、遺言があっても、他の相続人には最低限の取り分(遺留分)が法律で保障されています。ちなみに遺留分は相続人の人数によって割合が異なります。
また、相続人以外(長男の妻など)に親が対価を渡したいときには、生前贈与などが有効です。
特別寄与料制度の新設
親の介護や日常の世話を長年続けてきた方、特に長男の妻など「相続人ではないが家族のために尽くしてきた」方が、相続時に「自分も報われるはず」と期待するのは自然な感情です。
2019年の改正民法では、相続人以外の親族(長男の妻など)が、被相続人に対して無償で療養看護等の労務を提供し、財産の維持・増加に特別な寄与をした場合、相続人に対して金銭請求できる仕組みが出来ました。 これを「特別寄与料制度」と呼びます。
しかし、現実には「特別寄与料」制度があっても、その期待通りに報われるケースはとても少ないです。 その理由を次に見ていきます。
現実的な“壁”と課題
- 請求のハードルが高い
- 請求先は相続人であり、話し合いがこじれると家庭裁判所での調停・審判に進む必要があります
- 請求期限は「相続開始および相続人を知った時から6か月以内」または「相続開始から1年以内」と非常に短い
- 介護の具体的内容や期間、費用など、詳細な証拠資料の提出が必須です
- 相続人から「カネ目当てだったのか」などと反発され、精神的な負担や親族間の関係悪化も多く見られます
- 金額は希望通りにならないことが多い
- 裁判所は寄与の時期・方法・程度、遺産の額などを総合的に判断し、上限も設けられています
- 実際には「驚くほど少額」しか認められない場合も多く、費用対効果や精神的負担を考えると「報われなかった」と感じる人も少なくありません
- 遺産分割協議の長期化・トラブルリスク
- 相続財産の大半が不動産など現金化しにくい場合、支払い方法を巡ってさらにトラブルが長期化することもあります
まとめとアドバイス
- 「長男だから遺産を多くもらえる」は現行法では存在しません。
- 親の介護や貢献は「寄与分」として主張できますが、証拠や協議が必要で、希望通りにならないことの方が多いでしょう。
- 親の意思を反映させるには、遺言書や生前贈与の活用が有効です。
- 兄弟姉妹との早めの話し合いと、専門家(弁護士・司法書士・行政書士)への相談がトラブル防止につながります。
長男とそのご家族へ
「何となく長男だから」と思い込む前に、親の意思をきちんと確認し、兄弟姉妹とも情報を共有しましょう。相続は“他人事”ではありません。今だからこそ、冷静に、そして計画的に備えることが、家族の安心につながります。