なぜ「こども性暴力防止法」は詳細な準備を求めるのか

こども性暴力防止法は、児童の権利を著しく侵害する性暴力から子どもを守るために制定された法律です。
本制度は、社会全体で子どもの安全を確保するという公共的責任を法的に具現化したものであり、教育・保育に関わるすべての事業者に一定の準備と体制整備を求めています。

対象事業者は、学校設置者等(義務対象)に加え、広範な民間教育・保育等事業者(認定対象)を含みます。


第1章:制度対象の「境界線」を定める具体的な基準

認定対象となる民間教育事業の定義(一部)

  • 修業期間の具体的適用
     単なるイベントではなく、技芸や知識の習得を目的とした標準的修業期間が6か月以上であること。
     また、同一児童が複数回参加可能であることが認定要件となります。
  • 「事業者が用意する場所」の明確化
     対象となる場所は、事業者のオフィス、従事者の自宅、カフェ、公園、山や海などが含まれます。
     一方で、児童等の自宅や保護者が指定する場所・区画は対象外とされます。
  • 人員体制の必須要件
     教授を行う者は3人以上とする政令が予定されており、一定の組織性が求められます。
  • マッチングサイト運営者の対象化
     ベビーシッターマッチングサイトが委託契約を結び保育提供を行う場合、「認可外保育事業」として認定対象に含まれます。

対象業務(教員等・教育保育等従事者)の特定と判断基準

  • 職種の類型化
     事務職員や送迎バス運転手など、一見対象外に見える職種も、業務の支配性・継続性・閉鎖性から判断し、対象となる場合があります。
  • 短期間従事者の扱い
     1日・数日単位の雇用やボランティアでも、対象業務に従事する場合は確認義務の例外は設けないこととされています。
  • 実習生の確認要否
     児童と一対一になることが予定されている、または実習期間が長期にわたる場合は確認の対象とします。
  • 同一事業者内の整理
     認可保育所が一時預かり事業を併設する場合、後者は「認定対象事業」となり、従事者は「教員等」として扱われます。

第2章:認定申請と監督に関する詳細な手続き

認定申請・共同認定の具体的手順

  • 標準処理期間は概ね1〜2か月。
  • 認定申請には、現職従事者数、GビズID、法人役員の氏名・略歴等の提出が必要です。
  • 共同認定を受けた事業者の一方が違反した場合、他方も欠格期間の対象となるため、連携に注意が求められます。
    ※申請に必要な書類等は個別にお問合せください。

犯罪事実確認体制と監督の詳細

  • 体制整備
     戸籍提出に協力が得られない場合を想定し、事前同意書や就業規則を整備しておくことが重要です。
  • 確認の開始時期
     内定通知や異動内示の段階から確認手続きを開始可能です。
  • 監督の役割分担
     国は犯罪事実確認・情報管理措置を、所轄庁は安全確保措置を監督します。
  • 定期報告の頻度
     毎年4月末日を基準日とし、5月末日までに年1回報告(令和10年度から実施予定)。
  • 違反時の公表事項
     違反条項、内容、対象従事者数が公表されます。

第3章:犯罪事実確認の運用の詳細と「いとま特例」の適用

犯罪事実確認の手続きと標準期間

  • 外国籍者は在留カードや国籍変更証明書類を提出。
  • 戸籍電子証明書提供用識別符号を用いたオンライン提出を原則とする
  • 犯罪事実確認書には氏名を記載せず申請番号のみ表示。
  • 日本国籍は2週間〜1か月、外国籍は1〜2か月の処理期間。
  • 訂正請求は、通知が従事者ポータルで閲覧可能になった時点で到達とみなされます。

いとま特例の適用と必要措置

  • 確認期限は原則3か月、やむを得ない場合は6か月まで延長可能。
  • 特例適用期間中は、従事者を「特定性犯罪事実該当者」とみなし、一対一対応を避ける等の運用が必要です。
  • 例外的に一対一となる場合は、事前通知と事後報告を行うことが求められます。

協力拒否と労働法制上の対応

  • 確認書未交付→業務従事不可 、提出拒否→懲戒対象の可能性。ただし 事前に就業規則等で明示・周知が必要
  • 派遣先は、確認済み従事者のみを配置できるよう契約上明記し、情報伝達が法違反とならないよう配慮が必要です。

第4章:安全確保措置の実務 ― 早期発見と相談窓口の運用

早期把握と通報体制の整備

  • 早期発見の重視
     未就学児や障害児は複数職員による日常観察が有効です。
  • 報告ルートの多層化
     匿名通報制度など、上位者による加害を想定した仕組みが重要です。
  • 教育・啓発
     児童へのロールプレイ教育や性的グルーミング理解の促進が求められます。

相談体制の具体的運用

  • 複数・同性の相談窓口を設け、安心して相談できる環境を確保。
  • トイレ掲示やスマホ非所持児への外部相談経路の提示など、実効性のある周知を行う。
  • 社会福祉事業の苦情解決制度(第三者委員制度等)を併用可能。
  • 外部機関(#8891、こどもの人権110番等)との連携を強化。

調査・保護・支援の専門的対応

  • 調査は複数名によるチーム体制で実施。
  • 聴取時は記憶の汚染防止に配慮し、心理士・弁護士等と連携。
  • 保護者対応では、児童が話すまで事実に触れない丁寧な説明を行う。
  • 被害児童の回復支援を目的に、転校や進学時には同意を得て情報引継ぎを行う。

第5章:情報管理措置の厳格な運用とシステム対応

情報管理措置の基本原則と体制

  • 犯罪事実確認書の記録・保存は極力避け、転記を行わない。
  • 認定事業者は、情報管理責任者を含む2人以上の体制を整備する。
  • 特定性犯罪事実関連情報も、犯罪事実確認記録等と同等の厳重管理が求められる。
  • 確認書の交付はシステム閲覧を原則とする。

漏えい時の報告義務と廃棄方法

  • 報告範囲
     漏えい対象には「特定性犯罪事実関連情報」も含まれます。
  • 報告期限
     漏えいを知った日から概ね3〜5日以内に報告。
     特定性犯罪情報または100人以上の漏えいは重大事案とされます。
  • 廃棄・消去
     紙は復元不可能な手段、電子データは容易に復元できない方法で完全消去します。

この制度は、単なる法令遵守にとどまらず、「子どもの安全を社会全体で守る」ための新しい運用基盤を構築するものです。
事業者は、施行前から体制整備・職員研修・相談窓口設置などの実務的準備を着実に進めることが求められます。

行政書士事務所 POLAIRE(ポレール)

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