「お母さん、どうしたい?」と聞けなかったあなたへ
~“親の思い”をことばにしてもらうために~
私は行政書士として、親の終活や相続について不安を抱える方のご相談を受けています。 2016年から10年近く、終活をテーマにした活動を行うNPO法人の代表として沢山のお悩みに耳を傾けてきました。 行政書士として活動を開始して以降とくに多いのが、50代~60代の女性の方からのご相談です。
ご自身も年齢による急激な体調の変化で戸惑っている一方、これまで元気だと思っていた親の認知や体力の低下に、今後を心配する声をお聞きしています。
親がまだしっかりしているうちに、いざというときのことを決めてもらいたい、そうすればこんなに気を揉まなくていいのにと思う一方
「親に遺言の話なんて切り出せないんです」
「話したいけど、うまく言えなくて…」
そんなふうに迷っている方が、本当にたくさんいらっしゃいます。
もしかしたら、この記事を読んでくださっているあなたも、そのひとりかもしれません。
「どうして聞けないのか」には、ちゃんと理由がある
多くの方がこうおっしゃいます。
「縁起でもないと思われそうで…」
「結局、自分の都合と思われるのが嫌で…」
そのお気持ち、すごくよくわかります。親を悲しませたくないし、年を取って頑固になってしまった親に万一のことを話すと怒られて関係が悪化してしまいそう、なんで心配している私が一番しんどう思いをするのかと、腹立たしくもなるでしょう。
色んな思いがせめぎあって、どう切り出して良いか分からないと思う方が大半だと思います。でも、相談に来られたある方がこう仰いました。
「結局ね、“お母さんがどうしたいか”が知りたかったんです。 お母さんが大切にしてきたものを、どう受け継げば良いのかを教えて欲しいだけだった。」
いかがでしょうか? 例えば3人の子供たちに対して「自分の財産は三等分したらいいじゃない」と言われたとしましょう。 財産が現金のみであれば、単純に三等分すれば済みますが、貴金属や不動産、株式はそうはいきません。
「誰が何を受け継ぐか」を具体的に親の言葉で残してもらえば安心ですよね?
本音は「自分が困らないようにしたい」。でも、それだけじゃない
相続や財産のことがきちんと決まっていないと、「いざ」というときに本当に大変です。
- 通帳がどこにあるのか分からない
- 誰に何をどう分けるかで家族がギクシャクする
- あとから「そんなつもりじゃなかった」と言われてしまう
- 兄弟の配偶者まで出てきて引っ掻き回された挙句、兄弟仲まで悪化
多くの人が、そうならないようにしたい。揉めたくないと思っているはずです。
中には、自分に良いものを残して欲しいと思う人もいるでしょう。それも当然の感情ですが、「自分の財産をあてにしている」と思われてしまっては損です。
良いものを残してほしい、と思うのも裏を返せば、「自分が親から大切にされたきたことを確かめたい」思いからの願いなのではないでしょうか。
相談の場で出てきた、ある“きっかけの一言”
親に遺言書を書いてほしいというご相談で来られた方の話です。
その方はこんなふうに切り出されました。
「私も結婚して所帯を別に構えてますから、財産をあてにしてるわけではないんです。ただ、お母さんがどうしたいのか、教えてもらえるとありがたいと思ってるので、それをどう伝えたら納得してもらえるか知りたくて」
この言葉には私もハッとさせられ、「お母さんがどうしたいのか教えて欲しい」と、そのまま伝えてはどうでしょうか?とお伝えしました。
この言葉には、命令も、お願いもありません。
いかがでしょうか? 本音は「書いてくれないと困るのよ」という思いがあるにせよ、言い方ひとつで相手の受け止め方も全然違ってくると思いませんか?
専門家を交えるメリット
実際にご相談をお受けしていると、ご本人だけ親子だけでは話せなかったことが、専門の資格を持つ第三者が間に入ることで、冷静な判断に繋がります。
相続問題は、自分のことは一生一度の問題です。親自身もどうして良いのか分からない事も多々あります。「兄弟仲良く分ければいいじゃない」と仰る親御さんも多いです。 財産が銀行預金だけならば法定相続分に基づいて均等に分ければ済みますが、不動産や貴金属、その他思い出の品はそういうわけにはいきません。
相続を業務として扱う専門家であれば、「意思表示」と「仕組み」で、もめない準備をご提案出来ます。
最初の一歩は、小さなひと言から
「親に遺言のことを話したい」――その気持ちがあるのなら、
まずはこんなふうに言ってみてください。
「どうしたいか、一度教えてくれると嬉しい」
それは、立派な終活の第一歩です。
そして、どう話せばいいか迷ったときは、私たち専門家を頼ってください。
話しにくいことこそ、そっと言葉にできるように。
そのお手伝いが、我々の役割だと思っています。