いとま特例と犯罪事実確認の重要性
日本版DBS(こども性暴力防止法)におけるいとま特例(法第26条第2項)は、従事開始前に完了すべき犯罪事実確認を、やむを得ない事情がある場合に限り、従事開始後に政令で定める期間内に行うことを認める例外措置です。
この特例では、原則「3ヶ月」、特定事情がある場合に「6ヶ月」の期限が定められています。
期限を1日でも超過すると、犯罪事実確認義務違反となり、認定取消し(法第32条第1項第3号)の対象となる重大なリスクが生じます。
さらに、従事者から戸籍情報等の提出が拒否された場合、事業者は犯罪事実確認を行えず、同様に義務違反となる可能性があります。本記事では、期間管理の判断基準と、戸籍提出拒否への実務対応を整理します。
いとま特例における確認期限の管理
原則:従事開始から3ヶ月以内
いとま特例が適用される場合の基本的な期限は、従事開始日から3ヶ月以内です。この期限は、組織変更や国側の交付遅延といった特別な事情がないケースに適用されます。たとえば、急な欠員や予見不可能な利用者増による新規採用などが該当します。
3ヶ月期限の起算日:従事開始日の確認
期限の起算日となる「従事開始日」とは、従事者が実際に対象業務(教育・保育等)を開始した日です。正確な期限を特定するためには、この日付の確認が必須です。
期限延長:6ヶ月に認められるケース
法定上限である6ヶ月までの期限延長は、次の二つの基準に限定されます。
基準A:組織変更等による延長
合併・事業承継などの組織変更に伴い、多数の従事者を承継する場合、従事開始後の確認期間を6ヶ月まで延長できます。ただし、契約締結日から効力発生日までに十分な期間があったにもかかわらず確認を怠ると、特例の適用自体が認められません。
証拠管理のポイント
- 組織変更を証明する契約書や組織図変更記録の保存
- 監督者による報告徴収や立入検査時に提示可能な状態にしておくこと
基準B:国側の交付遅延による延長
対象事業者が従事者の従事開始前に犯罪事実確認書の交付申請を行っていたにもかかわらず、国(こども家庭庁)から交付が受けられない場合も6ヶ月まで延長可能です。
「十分な余裕」の定義
- 日本国籍:標準処理期間2週間~1ヶ月を超えて交付がない場合
- 外国籍:標準処理期間1~2ヶ月を超えて交付がない場合
証明義務
- 申請記録の保存
- 従事者への戸籍情報提出通知
- 遅延が事業者側の責めに帰さないものであることの明確化
実務上のリスク管理
混合ケース:3ヶ月から6ヶ月への再延長
急な欠員等で3ヶ月期限が設定されていた従事者について、期限までに国からの交付が受けられない場合、期限は6ヶ月に延長されます。
ただし、6ヶ月延長を適用するには、事業者側が期限までに申請手続きを完了させた証拠が不可欠です。
期限延長が認められないケース
- 従事者が戸籍情報を提出しなかったため、申請が期限までに行えなかった場合
- 内定通知や異動内示で犯罪事実確認の必要性とスケジュールを事前通知していなかった場合
事業者は事前通知・申請管理を徹底することで、期限延長が認められないリスクを回避できます。
戸籍提出拒否時の対応
従事者が戸籍情報の提出を拒否した場合、事業者は犯罪事実確認義務違反となるリスクがあります。適切な対応手順を整備することが重要です。
事前の伝達義務:拒否を防ぐための予防措置
犯罪事実確認に関する事前通知
- 新規採用者や配置転換前の従事者に、書面で犯罪事実確認の対象であることを通知
- 通知内容:犯罪事実確認の必要性、従事者が行うべき事項(戸籍提出等)、未提出時の対応
就業規則および服務規律の整備
- DBSに基づく手続への対応義務を明記
- 未提出時の業務命令違反として懲戒処分対象になる旨を従事者に事前周知
拒否発生時の対応原則
速やかな業務命令
戸籍提出が行われない場合、事業者は業務命令として速やかに提出を指示し、記録に残す必要があります。
違法状態回避のための代替措置
- 従事者が提出に協力しない場合、対象業務に従事させないことを検討
- 人事権の行使としての配置転換により、児童接触業務以外へ異動させ、違法状態を回避
懲戒処分の合理性・相当性
法的根拠
業務命令に従わない場合、就業規則に基づき「企業秩序を乱した場合」「規則・命令に反した場合」として懲戒処分を検討可能です。
判断基準
- 犯罪事実確認が児童性暴力防止において重要であること
- 事業者が犯罪事実確認結果を踏まえて防止措置を検討する義務があること
留意点
懲戒処分は、違法状態回避のための目的に限定し、恣意的・誤った判断は避ける必要があります。
まとめ
- いとま特例は原則3ヶ月、特定事情で6ヶ月まで延長可能
- 期限超過は犯罪事実確認義務違反となり、認定取消しのリスクがある
- 6ヶ月延長の適用には、組織変更や国交付遅延など、客観的証拠の管理が不可欠
- 従事者の戸籍提出拒否は、期限管理の重要課題
- 事前通知、就業規則整備、業務命令の記録、配置転換などで違法状態を回避し、懲戒処分の合理性を確保
正確な期限管理と従事者対応の徹底は、DBS制度運用の根幹であり、事業者としての法的リスク回避に直結します。
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